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ダニ専門家の島野教授に聞く

島野智之(しまの・さとし)

博士 (学術)。農林水産省東北農業研究所主任研究員、OECDフェローシップ
(ニューヨーク州立大学)、宮城教育大学准教授、フランス国立科学研究所 (招聘教授制度)。現在、法政大学 国際文化学部/自然科学センター 教授。

島野智之(しまの・さとし)教授

主な著書

  • 『ダニ・マニア《増補改訂版》』(八坂書房)
  • 『幻のシロン・チーズを探せー熟成でダニが活躍するチーズ工房ー 』(八坂書房)
  • 『ダニが刺したら穴2つは本当か?』(風濤社)
  • 『生物学辞典』(編集協力・分担執筆、東京化学同人)
  • 『ダニのはなし-人間との関わり-』(共編著、朝倉書店)
  • 『たけしの面白科学者図鑑-ヘンな生物がいっぱい』(ビートたけし編・分担、新潮社)
  • 『ダニの生物学』(分担執筆、東京大学出版会)

主な出演番組

  • 日本テレビ 「世界一受けたい授業」
  • NHK    「ダーウィンが来た!」

室内環境のチリダニ類(ヒョウヒダニ類)とつきあうために

島野智之(法政大学)

アレルギー疾患急増中

日本では全人口の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患しており、また、急速に増加している傾向にあるようです。(厚生科学審議会疾病対策部会、リウマチ・アレルギー対策委員会報告書、2011)。

ヒトの住まいに生息しているチリダニ科のダニ(ヒョウヒダニ類ともいう、以下、チリダニ類)には、日本では主に、チリヒョウヒダニとヤケヒョウヒダニがいます。体長は0.3〜0.4 mmと微小で、ヒトのフケや垢などの室内のタンパク質を餌に増殖します。

コナヒョウダニ ヤケヒョウダニ 走査型電子顕微鏡像(撮影:島野智之)

以前は、チリダニ類といえば、ヤケヒョウヒダニでした。しかし、窓の気密性の高いサッシなどが普及し一般的になり住環境が変わりました。このため西暦2000年を過ぎた頃から、逆転してコナヒョウヒダニの割合が多くなっているようです。コナヒョウヒダニがヤケヒョウヒダニよりも乾燥に耐えられるからだと考えられています。

ダニ由来のアレルゲン

ダニに由来するアレルギーを誘発する抗原(アレルゲン)には、10を超える種類がありますが、主なものとしては、(1) Der 1(フン由来のアレルゲン)と、(2) Der 2(ダニの体表の成分)があります。

フンがアレルゲンになるというのは、ダニの消化管内から餌の消化のために分泌される消化酵素がフンに混じってアレルギーの原因になっているということです。一方、ダニの体の成分がアレルゲンになるということは、ダニの死骸が段々にバラバラになったものが、それぞれがアレルギーの原因になると言う事です。
大事なのは、生きているダニがアレルギーのもとになるというよりは、ダニのフンや、死骸(ダニの体)が、アレルゲンとして重要であるという事です。

さて、1匹のダニには1〜2 ngのDer 2(ダニの体表の成分)が含まれています。1匹のダニは一生のうちに500個程度のフンをするので、全てのフンをあわせると40~100 ngのDer 1(フン由来のアレルゲン)になります。

つまり、ダニが私達のフケや垢などの餌をせっせと食べて、代わりにフンをせっせとすると、環境中にはたくさんのダニのフン由来のアレルゲンが増えていくことになります。
フンの大きさは0.01 mmと小さいので乾燥するとさらに小さくなり、空間に浮遊しやすく、呼吸により鼻や口から吸い込んだ場合、器官の奥まで張り込むことになり、喘息発作を誘発しやすくなります。

ダニの死骸は壊れないうちに、丁寧に掃除機で吸う事が大切ですが、布団を天日干ししたときに、布団を叩くと、ダニの死骸が粉々になって飛び散ってしまい、アレルゲンを布団に拡散させてしまうことになります。
布団を天日干しすることは、悪いことではありません、天日干しで膨らんだ布団に掃除機がけをすることで、ダニのフンや、ダニの死骸、そして生きたダニも減らすことができます。しかし、ダニは50℃の熱で20〜30分、60℃の熱でほぼ一瞬で死滅します。天日干しだけでは布団の中心はこの温度になりませんので、通常の天日干しではダニを殺すことは出来ません。しかし、家庭用の乾燥機やコインランドリーは有効です。布団の材質に気をつけて使ってください。その後、膨らんだ布団の中のフンや死骸を取り除くために、掃除機がけをする事を忘れないようにして下さい。なお、布団を日干しした匂いはダニの死骸の匂いであるという都市伝説がありますが、これは間違いで、ヒトからでる成分や洗濯石けんの成分が日光で変化したものだと言う事のようです。

ダニ対策 ダニ自体とダニアレルゲンの両方に!

ダニ対策というと、生きたダニを減らすことが大事だと思われていたかも知れませんが、ダニ自体とダニアレルゲンの両方の対策をする事が重要です。
今見てきた、チリダニ類はヒトを刺しませんが、ダニの生息密度を下げることは、ダニアレルギーや喘息を抑えるだけではなく、チリダニ類を食べるツメダニ科のダニ(以下、ツメダニ類)の発生を抑えることにつながります。ツメダニ類は、チリダニ類とは全く違うグループで、餌はチリダニ類や他の微小な節足動物です。食べると行っても大きなツメのような触肢でチリダニ類を押さえて、針のような口器で、体液を吸います。その針のような口器で、ときどき人間を刺し、赤疹やかゆみなどの原因になることがあります。ヒトを刺すと言ってもウイルスなどの病気は媒介しませんが、ツメダニ類が部屋のなかで増えると、大変な赤疹や痒みが起きることがあります。
チリダニ類が増えると、このツメダニ類が増えて赤疹やかゆみなどが増えるので、チリダニ類を減らす理由がここにもあります。

それでは、チリダニ類を減らすコツは以下をごらんください。

チリダニ類を減らすコツ

(1)掃除は朝早くか、夜遅く帰ったときに。

チリダニ類は明るい日中、光や振動を避けて、ジュータンや畳の奥に潜んでいますが、暗くなって2時間ほど経つと表面にも出てきます。日中は外出して、暗くなって帰宅した場合には(数時間部屋の中が静粛の状態が続き、かつ暗くなった状態で)すぐに掃除をすると良いでしょう。

(2)掃除機は、1平方メートル当たり20秒以上(出来る限りゆっくりが、望ましい)。

羽毛布団と羊毛布団は、側生地の目が細かくダニは布団内部に入りにくいので、布団表面に掃除機をかけます。大人の寝具(シングルで約2平方メートルと考える)であれば片面40秒、子供用の寝具は片面20 秒が目安です。このような簡単な掃除機がけでも4〜5割は除去できます。もちろん、ジュータンも、できるだけゆっくりと掃除機をかけるのがよいでしょう。
もっと丁寧に掃除機をかけることが出来る方は、布団表面では、1㎡を5分ずつ2回(シングルで約2平方メートルと考えるなら10分ずつ2回)にすると表面のDer 1(フン由来のアレルゲン)は、7割以上除去できます。
綿布団の場合は掃除機のみではアレルゲンの除去は難しいので、年1〜2回は、丸洗いにだす方が良いでしょう。
なお、布団を圧縮袋にいれても、ダニは窒息死しませんが、乾燥剤を入れると乾燥死してくれるので、圧縮袋と乾燥材を合わせて使用するのが有効です。

(3)シーツや枕カバーは洗濯が有効だが、厚手の寝具は注意。

洗濯によって、シーツや枕カバーについている生きたチリダニ類や、そのアレルゲンは90%以上が、繊維から落ちます。ただし、毛布など厚手のものの場合はDer 1 は90%が洗濯で落ちるものの、生きたダニ本体は20%しか落ちず、付着したままです。そのまま、洗濯物を干すとダニの死骸が残ったりするので、厚手の寝具の場合には、洗濯による除去方法を過信しない事が大事です。

(4)枕の上にタオルをひいてそれを洗う。

チリダニ類はヒトのフケを好み、また、ヒトの首筋からでる成分にも寄ってきます。枕の上に大きなタオルを広げ、タオルのみを毎日交換するのがよいでしょう。生きているダニはタオルのような潜り込みやすい布地を好みます。タオルはまとめて洗えばよいと思います。

(5)空気清浄機の位置やベッドの高さに注意。

空気清浄機を使用する場合は、枕元近くにおくと、ダニのフンが吸収されて、ヒトがそれを吸引することが減ります。また、ベッドの高さは30 cm以上あるほうが良さそうです。細かいダニアレルゲンや、空気中の軽い汚染物は床面まで落ちず、床上20 cm位を浮遊する場合があるからです。

(6)持続が大事。

ダニは50℃の熱で20〜30分、60℃の熱でほぼ一瞬で死滅します。効率的にダニ死滅させるなどの対策は可能で、加熱は3カ月に1度で結構ですが、掃除機がけは少なくとも1週間に1度は行ってください。
減らしたダニを再び増やさないことが大切です。

参考文献

市川栄一・吉川翠(1986)『家のカビ・ダニ退治法』主婦と生活社,東京.
Kawakami, Y., Hashimoto, K., Oda, H., Kohyama, N.,Yamazaki, F., Nishizawa, T., Saville, T., Asano, N., and Fukutomi, Y.(2016)Distribution of house dust mites,booklice, and fungi in bedroom floor dust and bedding of Japanese houses across three seasons. Indoor Environment, 19, 37-47.
吉川翠(2015)第8章 住のダニ(島野智之・高久元 編『ダニのはなし−人間との関わり−』)朝倉書店,東京.

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